くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

また本の紹介をしてみたいと思います。

くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

くらやみの速さはどれくらい (海外SFノヴェルズ)

ネビュラ賞受賞のSF小説自閉症の青年が主人公です。近未来、自閉症は幼児のうちに治療すれば治るものとなっており、主人公は治療法が間に合わなかった最後の世代の自閉症者である、という設定です。詳しいあらすじはリンク先を見ていただくとして、とにかく主人公の描写が秀逸です。自閉症者の世界がキラキラ描かれていて、暖かさを感じる描写となっています。なんでも、筆者の息子さんが自閉症でいらっしゃるとのこと。納得しました。

物語は、主人公が、成人の自閉症治療の治験者になるよう上司に指示されることから転がり始めます。自閉症でなくなったら自分は自分でなくなってしまうのではないか? 主人公は悩み…(後は本でお読みくださいね)というお話です。

読後最初に思ったのは、自閉症当事者の方が読んだらどんな感想を持たれるのだろうなぁ、ということ。当事者の方の感想、意見を聞いてみたいように思いましたが、逆に苦悩を深めてしまうのではないかという気もして。
というのも。モチーフとして描かれているのは自閉症ですが、自閉症者であること、そこから敷衍して障害者であること、更にはマイノリティであることを自らや周囲がどう捉え、どのようにアイデンティティとして築きあげ、いかに共に暮らし生きていくべきなのだろうか、という問題提起をも含んだ作品なのではないかと感じたからです。当人の気持ち、周りの気持ち、それが一致しなかったとき、私たちはどのように問題を解決して行けばよいのか。私の中では、未だ答えはでていません。

蜜柑自身は、どう思っているのでしょうか。よく判りません。でもやはり、私は今の蜜柑を愛しているのだと思います。自閉症ごと丸ごと、蜜柑を愛しているのだ、と。