山田くん、座布団


息子はいわゆる「知的障害のある自閉症」だとお医者さんから言われている。親としては、彼の知的な面を伸ばそうと思って、各種課題に取り組ませようとする。でも息子自身は遊びたいばっかりなので(誰でもそうだよね)ドリルとか開いてもなかなか乗ってこない。そもそも座ってるの嫌いだし。

なので、こっちもいろいろ考える。結局、半分勉強半分遊びみたいな感じになりがちだ。乗ってくれたはいいけどあんまり勉強にならなかったや、とか、ぜーんぜん乗ってくれなくて失敗とか、いろいろある。


中でも最近うまくいったのが、「山田くん、座布団運んで下さい」って課題だ。


山田くんって、「笑点」の座布団運びの山田くんのことね。

息子は「笑点」が大好きだ。というか、我が家では毎週「笑点」を見ているので、息子も自然に見るようになって、我々が笑っているので、どうやらこれは面白い番組なんだろうなぁと認識した、というような具合だけれども。

で、正月に、遊ぼうと思って「笑点」トランプって奴を買った。結局トランプはルールを教えられなくてできなかったんだけど、数にものすごく興味を持っている最中だったので、その点では非常に役に立った。で、そのトランプには、紙のチップがついていて、それがちょうど「笑点」で使われている座布団と同じ印刷がしてある。

複数の人に物を配る時、物を一つずつ順番に配って行くと公平にうまく行く。トランプを配るみたいに。

私はこれを息子に教えたかった。で。

笑点」トランプには、ジョーカーがものすごくいっぱいある。出演者の分だけジョーカーがあるのだ。それを私は三枚並べて置いた。歌丸さんと、木久蔵さんと、楽太郎さんだ。

「蜜柑(息子)くん、「笑点ごっこしよう。蜜柑くん山田くんの役やってね」息子、にこにこしている。
「山田くん、歌丸さんに座布団一枚あげてください」座布団チップを渡す。よく判らなかったようなので、私が手を添えて、歌丸ジョーカーの上に座布団チップを置いた。
「わー、山田くんありがとう。じゃあ今度は木久蔵さんに座布団一枚あげて下さい」今度は息子一人でできた。
「ありがとう山田くん。じゃ、楽太郎さんにも一枚あげて下さい」さっと座布団を置く。
「すごいねー。座布団はね、まだいっぱいあるから、山田くんみんなに配ってあげて下さい」私の手の中の座布団チップを見せると、息子はうれしそうに、歌丸さん、木久蔵さん、楽太郎さん、歌丸さん、木久蔵さん....とチップを配りはじめた。やった!!

人数を増やして、五人に配るというのも、あっさりこなした。こんなにあっさりできるようになるとは思わなかったので、ちょっと拍子抜けした。

多分、トランプを配って、と言ってもできなかっただろう。そういう動きは、息子は今まで見たことがないからだ。食べ物を配るのもムリだろう。自分で全部食べたいからだ。普通のカードゲームで使うチップを配るのもできないだろう。そんな、初めて見るものを配る意味を見いだせないからだ。

でも、座布団を配るという動きは、毎週毎週楽しみに見ている動きだ。彼に取って、座布団は配るもの。きっとこれならできる、そう思って、課題として出した。そして、彼は課題をこなした。大成功だった。

自閉症の人に取って、「失敗」は、ものすごく大きなハードルになる。一度失敗したことは、2度とやりたがらない。うまく説明できないけれど、「うまくできる自分」というものに固執し過ぎるのかもしれない。それは、障害特性上やむを得ないことだが、こちらが課題選びに一度失敗すると、その課題をこなすのがものすごく困難になり、やっかいなことになるのだ。

息子が「ものを配る」ということを覚えるための課題を、どう提示しようか、私は結構考えた。一週間くらいかかった。でも「笑点」のおかげで、すばらしくうまくいった。うれしい。ありがとう「笑点」。


今回は成功した例。失敗した例も、そのうち書くことがあるかもしれない。