療育センター通所を悩む人へ


息子は、この三月、市の療育センターを退園した。
「療育センター」というものの存在を知っている人は、少ないだろう。これは、児童福祉法に定められる、児童福祉施設の一つだ。息子が通ったのは、その43条にある、「知的障害児通園施設」というものだ。

第四十三条 知的障害児通園施設は、知的障害のある児童を日々保護者の下から通わせて、これを保護するとともに、独立自活に必要な知識技能を与えることを目的とする施設とする。

うーん、素っ気ない文章。身も蓋もないですな。「知的障害児通園施設」だって。確かにそうなんだけども、やっぱこれではあんまりだということなのか、各自治体によって名称は様々。ウチの地域では「療育センター」と言う名前になっているし、「児童相談所」が同様の役割をしているところもあるし、「福祉センター」とか言われている所もあるようだ。「○○園」など、幼稚園みたいな名前がついているところも多い。

息子はここに一年間、幼稚園や保育園に行くように、週五日、夏休み等をのぞき、毎日通っていた。やってることは、幼稚園や保育園と大差ない。子どもが何人かいて、先生がいて、お遊戯をしたり、給食やおやつを食べたり、園庭や公園で遊んだり、お昼寝したり、運動会なんかもある。
違うのは、障害を持っている子、もしくは障害を持つ疑いのある子だけが来ている、ということだ。また、細かい配慮が必要となるので、保育園等に比べ、職員の数がとても多いという違いもある。

息子をここに通わせるにあたって、私や夫は、それなりに悩んだ。
なんといっても、「知的障害児通園施設」だし。自分の子どもを「知的障害児」と言われて、平静で受け止められる親は、そんなにはいまい。自閉症の子の場合、ある程度大きくなってからでないと障害がはっきりしてこないこともあって、我が家でも、些かのすったもんだがあった。3歳になれば幼稚園に行って…と、漠然と思っていたのが、突然(でもないか。以前から自閉症じゃないかという疑念は抱いていたからね)引っくり返された訳なので。
でもまぁ、普通の子より幼いのは確かだし、ドクターにも勧められたことだし、子どもを療育センターに通わせた人に聞くとかなり評判がよかったので、いっちょ通わせてみるか、と言うことになった訳だ。

いざ通わせてみると、これが、すごくよかった。
トイレを見るとひーひー泣き、この子は一生おむつでいるんじゃないかと思っていた息子が、あっさり大小ともトイレでできるようになった。
自分の意志を表現することが苦手だった息子が、身ぶり手ぶりでだけど、遊んでだのこれが欲しいだの嫌だのなんだのとコミュニケーションできるようになった。
やりたいこと欲しいものがあると一目散に突進していた息子が、順番を守ったり、許可が出るまで待っていられるようになった。
その他もう、いろいろ。

いやホント、魔法のようでしたよ。

のびる時期だったっていうのも、あるのかもしれないけれど。でも、家にいて、私と一緒にいただけでは、ここまで伸びるとはとても思えない。
その辺はやっぱり、プロの力だと思った。障害児を育てる、プロ。そういう人には、なかなか出会う機会がない。ないから、「どうしてこんなにこの子は育てにくいのかしら」と悩んでいる親が多い訳だけれど。でも、療育センターには、そんなプロがどっさり、いた。

私は、ものすごく、そのプロの力に助けられた。
障害の特性から、障害のない子と同じような接し方では、問題が改善されないことが多くある。そんなときどうしたらいいのか。いつも相談に乗ってもらった。教えられたように接すれば、大抵うまくいった。驚くほどだった。

私は、息子が産まれてから、一番穏やかな1年を過ごさせてもらったと思っている。


これを読んでいる人で、ひょっとして、子どもを療育センターに通わせようかどうしようか、迷っている人がいるかもしれない。…どうなのかな、いないかな。ま、とにかく。

あなたの悩みを相談する場所としてだけでも、療育センターは役に立ちます。あなたの気持ちが穏やかでなければ、どんなに子どものためにがんばっても、続かないよ。
また、大抵どこでも、療育センターの定員に比べて援助を必要としている子どもの数は、比べ物にならないくらい、多い。あまりいい言い方ではないかもしれないけれど、療育センターに行ける見込みがあるのなら、儲け物だと思った方がいいと思う。同様の施設がない自治体も、あるんです。

それに、子どものために行かせるというよりは、親のあなたが、子どもへの接し方を学びに行くと思った方が、気が楽かもしれないよ。療育センターで子どもがいっぱい伸びるかどうかは私には判らない、その子その子で違うから。でも、少なくとも、親は勉強になる。これからずっと、子どもとつき合って行くための、心構えがきっとできる。


だから、療育センターに子どもさんを通わせてみたら。


……こういうことを、療育センターへ通おうかどうしようか悩んでいた後輩お母さんたちに、話した。どのくらい伝わったかは判らないけれど。後悔のない選択をしてくれるといいと思っている。


息子は、四月から、地元の保育園に通うことになっている。ものすごく不安だ。「保育園に入れて良かった」っていう、先輩お母さんの言葉を信じて決めたんだけど……。

やっぱね、誰がどう言ったって、不安は不安だってことやね。エラソーなこと書きましたけれどもね(汗)。